大学入試において、TOEFL受験を義務化するという提言が出ています。
点数については、各大学で定めればいいことなので、その点だけを見れば、「好きにすれば?」と思います。
しかし、現実を見ると、そうも言っていられません。
問題点は基本的には4つあります。
1. 現在、日本ではTOEFL試験はiBT形式で行われている
インターネット接続した計算機を使ってテストをしています。これについては、細かくさらに3つの問題があります。
1.1. 受験者分のPCの確保が必要
当然ですが、一回のテストの受験者分のPCが用意できなければ話になりません。第何回のどこどこ会場のテストというのを、たとえば午前と午後に分けることも不可能ではないでしょう。しかし、後で述べる守秘義務、あるいは単純に午前の受験者から午後の受験者になんらかの情報が漏れる可能性があります。
1.2. 会場内でのPCのネット接続が必要
インターネット接続した計算機を使ってテストをするので、当然、用意した計算機はネットに接続できなければなりません。まぁ、今なら無線LANを使うことで手間は相当省けますが、接続や接続状況の確認に手間がかかることは変わりありません。
1.3. 受験に問題ない程度の容量をもったネット回線の準備
まぁ、会場がある建物は、全受験者が同時に何かをしても問題がないように、高速のネット回線が引かれている必要があります。リーディングとライティングあたりは、まぁどこでも問題ないでしょう。ですが、リスニングとスピーキングには個々の受験者ごとに幾分なりとも帯域を取るので、注意が必要です。
これらの問題については、iBTではないテスト形式を用いれば回避可能です。
2. スピーキングテストがある
スピーキングがあるということは、受験者が声を出すということです。ある特定の受験者の解答は、他の受験者にとってはノイズになりうるということです。
これについては、遮蔽版を用意するとか、ノイズキャンセリング機能が強いヘッドセットを使えば、ある程度は回避可能かと思います。ノイズキャンセリング機能付きのヘッドフォンを普段使っている人は、「あの程度ではちょっと」と思うかもしれませんが、あれはわざと少し外の音が聞こえるようにしています。街中を歩いているときに車の音とかが何も聞こえなかったら逆に危険だということは想像できますよね。だから、そうなっています。なので、そのあたりを無視して強くノイズキャンセリングできるようになっているヘッドセットを使えば良いわけです。
3. 案外、用意されている問題数が少ない
現在、何百問用意されているのかはしりません。しかし、まだそれほど多くないはずです。ということはどういうことか? 事前の情報収集やテスト対策が有効だということです。それはどういうことかというと、高校や予備校での英語教育が、結局はテスト対策になるということです。TOEFL導入を支持している人は、そういうことを理想としているのでしょうか? たぶん違うと思います。とすると、どうにもならない矛盾が発生します。
問題数が少ないことと関係するのかは分かりませんが、TOEFLの受験者は、テスト内容などを漏らさないという守秘義務契約にサインが求められます。テストの公正性や、あるいは商売も関係しているかもしれませんが。でも、まぁそんなものは無視されるので、情報は今ならネット上にダダ漏れです。その結果、ETS側の判断で、第何回のテストは無効とされる場合があります。テスト対策ではあってもまじめに勉強した人も巻き込んで、無効になります。「何点取ったから、あそこの大学の基準は満たした」と思っていたら、「無効です」とか言われる可能性があるわけです。困りますね。
あと、iBTでは、第何回という特定のテストを受けたとしても、提示される問題は受験者ごとに異なります。問題数の制限から、完全に異なるということはないでしょうが。受験者の解答を計算機(受験者の端末なのか、接続先の計算機なのかは知りませんが)が判定し、次に出す問題を決めます。それにより、受験者にとっても、用意してある問題にしても、比較的少ない問題数で、受験者に見合った得点を出せるようになっています。
4. 受験者数の急増
TOEFL受験が義務化されれば、当然、今よりは受験者数が急増します。いずれ解消されるとしても、ETS側でそのような受験者の急増に対応できるでしょうか?
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というような感じです。なので、正直、現状で義務化するのは無理です。義務化しようといっている人は、控えめに言っても馬鹿です。その上、TOEFL受験の義務化によって、英語の能力が上がると考えている人は、極めて控えめに言っても知的能力に障害があるとしか評価できません(表現としての問題であって、知的障碍者を差別する意図はありません)。
さらに言えば、なぜそんなに英語にこだわるのか、理解できません。英語は民族語の一つに過ぎません。「英語は世界共通語だ」と言われるかもしれませんが、それでも民族語の一つに過ぎません。便宜上、英語が使われる場合が幾分か多いというだけです。民族語であるがゆえに、英語圏においてさえ、Plain Englishなどの運動が起きていることは知らないのでしょうか? まぁ、英語の運用能力の向上は、何がしかに役立つとしましょう。ですが、言葉の行き違いをより少なくし、よりはっきりとしたコミュニケーションをとるためには、相手が使っている言語を習得することが望ましいでしょう。英語を第一外国語として習得するとしても、第二外国語、第三外国語の習得が前提になければ、無意味です。英語の運用能力が向上すれば、グローバル人材になるとか思っている人がいるとしたら、いくつもの意味において(英語の運用能力以外に、そもそも何ができるのかの方が重要です)、これ以上ないほど控えめに言っても知的能力を有しない人としか評価できません(表現としての問題であって、知的障碍者や脳および身体に関する障害者を差別する意図はありません)。
追記(2013-May-05 02:31) ---- BEGIN
TOEFLがどうのこうのより、そもそも高校生や大学生のときから、英語のwebページを読むのは普通のことだと、学生自身が考えるようにする方がよほど有効だと思います。「それではスピーキングがどうのこうの」といわれるかもしれませんが、そもそも入力がなければ出力は困難です。特に民族語では、「こういう言い回しが普通」というものがいくらでもあるので、仮に言いたいことがあったとしても、まずはそういうものの入力が不可欠です。
あとは、「発音が云々」という話もあるでしょうが、そんなものは気にしなくて大丈夫です。気にするのは、話す内容がないからくらいの考えで構いません。現実には状況はいろいろでしょうが、こちらが英語を使う場面というのは、相手もこちらも何らかの共通の目的がある場合でしょう。ですから、相手がネイティブの英語話者だとしても、こちらの話す内容を聞こうという姿勢で聞きます。おまけに、日本語を母語とする話者が話す英語に相手が慣れてくれていれば、まったく問題はありません。
「リスニングはどうする」とかも言われるでしょうが、英語のwebページを読むくらい普通という感覚と同じく、たとえばYouTubeで英語音声の動画を見るのは普通くらいになれば、リスニングも困りません。
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追記(2013-May-05 03:31) ---- BEGIN
発音について。言ってしまえばですね、例えば「大阪弁訛りの英語」(と書いても想像できないでしょうが、そうとしか表現できない)で通じてるのを目の当たりにすると、細かい発音がどうとか言っても意味がないって実感できますよ。そりゃ出来ないより出来たほうが良いでしょうけど。それ以前に、話す内容の方が大事だってわかります。
英語運用能力を至上命題にしてるような人もいるようですが、そんなの意味ありません。それより、母語できちんと読み書きできなければ意味がありません。
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点数については、各大学で定めればいいことなので、その点だけを見れば、「好きにすれば?」と思います。
しかし、現実を見ると、そうも言っていられません。
問題点は基本的には4つあります。
1. 現在、日本ではTOEFL試験はiBT形式で行われている
インターネット接続した計算機を使ってテストをしています。これについては、細かくさらに3つの問題があります。
1.1. 受験者分のPCの確保が必要
当然ですが、一回のテストの受験者分のPCが用意できなければ話になりません。第何回のどこどこ会場のテストというのを、たとえば午前と午後に分けることも不可能ではないでしょう。しかし、後で述べる守秘義務、あるいは単純に午前の受験者から午後の受験者になんらかの情報が漏れる可能性があります。
1.2. 会場内でのPCのネット接続が必要
インターネット接続した計算機を使ってテストをするので、当然、用意した計算機はネットに接続できなければなりません。まぁ、今なら無線LANを使うことで手間は相当省けますが、接続や接続状況の確認に手間がかかることは変わりありません。
1.3. 受験に問題ない程度の容量をもったネット回線の準備
まぁ、会場がある建物は、全受験者が同時に何かをしても問題がないように、高速のネット回線が引かれている必要があります。リーディングとライティングあたりは、まぁどこでも問題ないでしょう。ですが、リスニングとスピーキングには個々の受験者ごとに幾分なりとも帯域を取るので、注意が必要です。
これらの問題については、iBTではないテスト形式を用いれば回避可能です。
2. スピーキングテストがある
スピーキングがあるということは、受験者が声を出すということです。ある特定の受験者の解答は、他の受験者にとってはノイズになりうるということです。
これについては、遮蔽版を用意するとか、ノイズキャンセリング機能が強いヘッドセットを使えば、ある程度は回避可能かと思います。ノイズキャンセリング機能付きのヘッドフォンを普段使っている人は、「あの程度ではちょっと」と思うかもしれませんが、あれはわざと少し外の音が聞こえるようにしています。街中を歩いているときに車の音とかが何も聞こえなかったら逆に危険だということは想像できますよね。だから、そうなっています。なので、そのあたりを無視して強くノイズキャンセリングできるようになっているヘッドセットを使えば良いわけです。
3. 案外、用意されている問題数が少ない
現在、何百問用意されているのかはしりません。しかし、まだそれほど多くないはずです。ということはどういうことか? 事前の情報収集やテスト対策が有効だということです。それはどういうことかというと、高校や予備校での英語教育が、結局はテスト対策になるということです。TOEFL導入を支持している人は、そういうことを理想としているのでしょうか? たぶん違うと思います。とすると、どうにもならない矛盾が発生します。
問題数が少ないことと関係するのかは分かりませんが、TOEFLの受験者は、テスト内容などを漏らさないという守秘義務契約にサインが求められます。テストの公正性や、あるいは商売も関係しているかもしれませんが。でも、まぁそんなものは無視されるので、情報は今ならネット上にダダ漏れです。その結果、ETS側の判断で、第何回のテストは無効とされる場合があります。テスト対策ではあってもまじめに勉強した人も巻き込んで、無効になります。「何点取ったから、あそこの大学の基準は満たした」と思っていたら、「無効です」とか言われる可能性があるわけです。困りますね。
あと、iBTでは、第何回という特定のテストを受けたとしても、提示される問題は受験者ごとに異なります。問題数の制限から、完全に異なるということはないでしょうが。受験者の解答を計算機(受験者の端末なのか、接続先の計算機なのかは知りませんが)が判定し、次に出す問題を決めます。それにより、受験者にとっても、用意してある問題にしても、比較的少ない問題数で、受験者に見合った得点を出せるようになっています。
4. 受験者数の急増
TOEFL受験が義務化されれば、当然、今よりは受験者数が急増します。いずれ解消されるとしても、ETS側でそのような受験者の急増に対応できるでしょうか?
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というような感じです。なので、正直、現状で義務化するのは無理です。義務化しようといっている人は、控えめに言っても馬鹿です。その上、TOEFL受験の義務化によって、英語の能力が上がると考えている人は、極めて控えめに言っても知的能力に障害があるとしか評価できません(表現としての問題であって、知的障碍者を差別する意図はありません)。
さらに言えば、なぜそんなに英語にこだわるのか、理解できません。英語は民族語の一つに過ぎません。「英語は世界共通語だ」と言われるかもしれませんが、それでも民族語の一つに過ぎません。便宜上、英語が使われる場合が幾分か多いというだけです。民族語であるがゆえに、英語圏においてさえ、Plain Englishなどの運動が起きていることは知らないのでしょうか? まぁ、英語の運用能力の向上は、何がしかに役立つとしましょう。ですが、言葉の行き違いをより少なくし、よりはっきりとしたコミュニケーションをとるためには、相手が使っている言語を習得することが望ましいでしょう。英語を第一外国語として習得するとしても、第二外国語、第三外国語の習得が前提になければ、無意味です。英語の運用能力が向上すれば、グローバル人材になるとか思っている人がいるとしたら、いくつもの意味において(英語の運用能力以外に、そもそも何ができるのかの方が重要です)、これ以上ないほど控えめに言っても知的能力を有しない人としか評価できません(表現としての問題であって、知的障碍者や脳および身体に関する障害者を差別する意図はありません)。
追記(2013-May-05 02:31) ---- BEGIN
TOEFLがどうのこうのより、そもそも高校生や大学生のときから、英語のwebページを読むのは普通のことだと、学生自身が考えるようにする方がよほど有効だと思います。「それではスピーキングがどうのこうの」といわれるかもしれませんが、そもそも入力がなければ出力は困難です。特に民族語では、「こういう言い回しが普通」というものがいくらでもあるので、仮に言いたいことがあったとしても、まずはそういうものの入力が不可欠です。
あとは、「発音が云々」という話もあるでしょうが、そんなものは気にしなくて大丈夫です。気にするのは、話す内容がないからくらいの考えで構いません。現実には状況はいろいろでしょうが、こちらが英語を使う場面というのは、相手もこちらも何らかの共通の目的がある場合でしょう。ですから、相手がネイティブの英語話者だとしても、こちらの話す内容を聞こうという姿勢で聞きます。おまけに、日本語を母語とする話者が話す英語に相手が慣れてくれていれば、まったく問題はありません。
「リスニングはどうする」とかも言われるでしょうが、英語のwebページを読むくらい普通という感覚と同じく、たとえばYouTubeで英語音声の動画を見るのは普通くらいになれば、リスニングも困りません。
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追記(2013-May-05 03:31) ---- BEGIN
発音について。言ってしまえばですね、例えば「大阪弁訛りの英語」(と書いても想像できないでしょうが、そうとしか表現できない)で通じてるのを目の当たりにすると、細かい発音がどうとか言っても意味がないって実感できますよ。そりゃ出来ないより出来たほうが良いでしょうけど。それ以前に、話す内容の方が大事だってわかります。
英語運用能力を至上命題にしてるような人もいるようですが、そんなの意味ありません。それより、母語できちんと読み書きできなければ意味がありません。
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